小夜曲
〜 Side Story 〜




 秋の夕暮れはどこか幻想的で、夢見る乙女達にとっては感傷的になる時間なのかもしれません。普段は勝気、天邪鬼で意地っ張りな仮面を被っていても、本当は繊細で真面目な女の子もきっと……。


 夕暮れ気分   〜前編〜


 一学期にやった山百合会のお手伝いは、祐巳専属のアシスタントみたいなものだったわけで。お互いにその辺は気心がしれてるとの意見もあり、作業の分担は紅薔薇のつぼみと組むことが多くなっていた。
そのせいか、帰る時間がバラバラになるときは、自然と二人で帰宅することになります。

 そんなある日のこと……。

 今日は祐巳のケアレスミスに振り回されなかったせいか、瞳子ちゃんは普段の憎まれ口も叩かず、少し上機嫌な感じで祐巳とたわいもない会話をしながら、銀杏並木を歩いていました。
 夕日のオレンジ色の中で微笑みを浮かべる瞳子ちゃんの姿は、祐巳にとってはめったに見せてはもらえない、レアもの。思わず可愛いって抱きしめてしまいたくなるのだけど、その瞬間、全てが夢散してしまうのは明白で。
だからちょっと照れたように微笑を返すだけ。

 そろそろマリア様のお庭の前に着こうかというところで、二人は前方に人影をみつけて足を止めました。
「桂…さん?…」
 マリア様にお祈りをしているのは、祐巳が一年の時同じクラスだった桂さんだった。隣にいる子に見覚えはなかったが、テニスラケットを持っているので部の後輩だろう。
その様子を見れば、二人が姉妹の契りを結んでいることは疑いのないことで。
桂さんのことだから、気の合う後輩を見つけてロザリオを渡したのだろうと、祐巳は複雑な思いで、校門へと向かう、仲睦まじい二人を見送っていた。
「……いいなぁ……」
 呟きは隣から。
気をつけていなければ聞こえないような小さな声。
視線を移せば、穏やかな表情で、ちょっと羨ましそうに前方を見つめる瞳子ちゃん。
その目元に夕日が反射して祐巳は眼を細めた。
 涙?!
 ちょっとドキッとして慌てて前方に視線を戻す。
「と、瞳子ちゃんは、お姉さま欲しくないの?」
 動揺を悟られまいと、変な質問を投げかけてしまう。でも返事は返ってこなかった。
 心を落ち着けて、再び隣へ視線を移すと、瞳子ちゃんは時が止まってしまったかのようにそのままで。
 その姿に引き寄せられてしまったのだろうか?
 祐巳はふと心に浮かんだ疑問を投げかけてしまっていた。
「瞳子ちゃんのお姉さまになる人はどんな人かな?」
 答えは期待していなかった。
もしあったとしても、それは、
『どうして祐巳さまにそんなことを答えなければいけませんの?』
なんて憎まれ口だろうし。

「……………」

 だからその答えが返ってきたとき心底驚いた。
思わず、「へっ?!」って声をあげてしまうほどに。
 その素っ頓狂な声に、瞳子ちゃんがゆっくりと顔を祐巳の方へ向けた。
うつろな瞳。
そこに少しづつ祐巳の姿が映し出され、形を成していく。
 そして……。
 さっと染まった顔色は夕日のせいではなくて。でもそれを確認できたのは一瞬で。
 踵を返した瞳子ちゃんは、
「私、用事を思い出したのでお先に失礼致しますわ……」
 そう言い残し、マリア様にお祈りもせず、校門へと駆けていった。
 残された祐巳は呆然とその場に立ち尽くし、
「えええええ」
 と声をあげるしかなかった。

 To be continued ...


 あとがき
 ちょっと気分を変えて、今回は前後編でお届けしようと思います。
瞳子ちゃんの答えをすぐに出しちゃうのはもったいないかなとか考えてしまったので。
たわいもないSSにそこまでしなくてもってご意見もあるとは思いますが、今回で5作目になりますし、ちょっと遊び心を出してみたくて。
なので、どうぞご容赦くださいませ。
よかったら、瞳子ちゃんの答えを考えて見て下さい。
因みに「祐巳さま」ではありません( ̄ー ̄)
 祐巳ちゃんと瞳子ちゃんが見かけた姉妹。
普通の名もなき方々でもよかったのですが、なんとなく思いついて、祐巳ちゃんの一年生時の級友、桂さんに登場していただきました。
彼女のことだから、秋のこの時期、もう妹がいるのではないかなと思いまして。
本編でまだいないなんてお話がでたら、このお話はパラレルワールドってことで…。
 それではまた…

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