小夜曲
〜 Note 〜



 祥子さまと瞳子ちゃんの裏事情考

 本編が祐巳ちゃんの視点で語られるため、その舞台裏は表に見えてこない場合が多々あります。それを逆手にとったエピソードの最たるものが「レイニーブルー」でしょう。
 今後、瞳子ちゃんが祐巳ちゃんの妹となるならば、まだ表に見えていない部分が解き明かされていくはずです。そういった部分を今までの本編から推察していこうと思います。

瞳子ちゃんの性格
 まず最初に瞳子ちゃんの性格を整理しておきます。
イケイケだの天邪鬼だのいろいろ語られているとは思いますが、地が出ている場面が何箇所かあります。
「子羊たちの休暇」で噂話をやめさせる場面、「レディ、GO!」で運動会の玉ころがし。この辺から見るに、本性は真面目で繊細なんじゃないかと思われます。

高校入学時の瞳子ちゃんの心情
 「チェリーブロッサム」のBGNから、祐巳ちゃんに対してとても友好的に接しているように見えます。本性を隠しているようにも見えますが、この辺の接し方は普段乃梨子ちゃんとかに接しているような自然さが感じられるのです。
 なので、この時点で祐巳ちゃんは祥子お姉さまを奪った嫉妬すべき対象というよりは、祥子お姉さまの妹になった方ってどんな方かしらという興味対象じゃないかと思います。
「パラソルをさして」での清子小母さまの言にもあるように、祐巳ちゃんのことを語る祥子お姉さまのやさしげな顔を見て、嫉妬心も薄れていたのではないかと思われます。

レイニーブルー編
 この時の祥子さまはお祖母さまの一大事で、それ以外のことは考えられないような精神状態だったと思われます。この辺は「パラソルをさして」で祐巳ちゃんの視点でも語られているので割愛します。
 最初の密会時、瞳子ちゃんはお祖母さまのお見舞いもしたいし、祥子お姉さまと一緒にいたいという気持ちからだったでしょう。祥子さまはお祖母さまとの約束もあり、瞳子ちゃんの口から祐巳ちゃんへ事情が語られるのを恐れたと思われます。
 その結果、マリア様像の前で待っていた瞳子ちゃんを捕まえて、祐巳ちゃんに事情を話さないよう約束させる必要があった訳です。瞳子ちゃんの方は真面目な性格から、祥子お姉さまとの約束を頑なに守った(ヒントは出しましたが)のだと思います。
 おそらくこの時、祥子さまと祐巳ちゃんの間に遊園地デートの約束があることまでは語られなかったのでしょう。それと祥子さまの口調(多分祐巳ちゃんをとても信頼しているように語ったのでは?)から祐巳ちゃんに畏怖の想いを抱いていたのかもしれません。なので、瞳子ちゃんには落ち込んでいく祐巳ちゃんの事情が見えなくて、自分の間の悪さに気づかなかったと思われます。
 「私より瞳子ちゃんの方を選ぶんですね!」
 間違いなく、瞳子ちゃんには聞こえていますよね。出てきた祥子さまの表情を見ても何かあったのはわかると思います。多分瞳子ちゃんは、問い詰めたのではないかと思います。でも祥子さまは事情を話さないでしょう。祐巳ちゃんは翌日から薔薇の館に行かなくなります。その話はきっと乃梨子ちゃんから瞳子ちゃんの耳に入ったはずです。
 この時、瞳子ちゃんなら…二人の誤解を解く場を設定すると思うのです。祐巳ちゃんは薔薇の館に寄らず直接帰宅してる、自分達には彩子お祖母さまの容態が気になる、ならばその場所は…昇降口ですよね。
 そして悲劇は起こりました。
この時事務的で感情を表にださないような口調の瞳子ちゃんがちょっといじらしいと思った雪標です。

パラソルをさして編
 事情がわからない自分、黙して語らない祥子お姉さま、翌日出会ってみれば泣きはらした顔で作り笑いを浮かべる祐巳さま、約束だからそのことを告げられない自分。鬱積した気持ちのはけ口が祐巳ちゃんに向かったのは至極当然のことでしょう。それにこの時点で瞳子ちゃんは、祐巳ちゃんに、本人は気づいていなくても、気持ちの上では深い想いを抱いていたと思われます。だから、
「やっぱり、祐巳さまは祥子さまに相応しくありませんっ」
これは、どうあがいたって、祥子お姉さまの妹は祐巳さましかいないんだっていう気持ちの裏返し発言だったと思います。
 やがて祐巳ちゃんが復活してきます。
暴言を吐きまくった手前、素直になれない自分に、今までとは少し変わった雰囲気(成長したといいましょうか?)で接してくる祐巳さま。戸惑いと驚きと自分の気持ちの変化を感じてきたところでしょう。
 そして祥子さまの復活。
瞳子ちゃんは自分にも話を聞く権利があるだろうと思うでしょうし、祥子さまもこの件は瞳子ちゃんには話しておくべきだろうと考えたのではないかと思います。
 全ての事情を知った瞳子ちゃんがどうなったか?
雪標の考えを書いたのがSS「祐巳がいない」です。

子羊たちの休暇編
 事情はわからないが、瞳子ちゃんが塞ぎ込んでるのを心配したご両親が、普段は別荘にいくところを、気晴らしにカナダ旅行させようかと思ってるという話を祥子さまにしたのではないかと思います。ただ、どうしても、
「瞳子ちゃん?」・・・「あの子はだめよ」
この発言がひっかかるのです。何か逡巡しているように思われます。そう、瞳子ちゃんのことを思い遣っての発言じゃないかと思うのです。今はまだ祐巳ちゃんと瞳子ちゃんを会わせるべきじゃないという祥子さまの想いが現れているように思います。
 それでも瞳子ちゃんは別荘に姿を現します。
祐巳ちゃんが祥子さまの別荘に一緒にいくことは、乃梨子ちゃんからでも柏木さんあたりからでも耳にすることはできたでしょう。
 では何故、無理してまで別荘に行ったのでしょうか?
祐巳ちゃんに会いたい一心じゃないことは明白です。
恐らく、自分が祐巳ちゃんを傷つけてしまったことへの贖罪というか、祐巳ちゃんをもう傷つけたくない一心じゃないのかなと思います。由乃さん曰く、別荘は祐巳ちゃんにとってアウェーですから。
この行動原理はその後の「涼風さつさつ」や「レディ、GO!」で如実に表現されていますね。
 そして、本編最大の見せ場、西園寺さまの別荘シーンですが、その前に一つ。
山百合会の面々が小笠原家別荘に遊びに来ますが、このとき、祥子さまがどちらにお出かけだったかおわかりですよね。
 そう、松平家別荘です。
 祐巳さま心配の瞳子ちゃんが祥子さまにくってかからないはずないですよね。
瞳子ちゃんとの会話は祥子さまに西園寺家別荘に行くことを決心させたのでしょう(祐巳ちゃんとの会話でも表現されていますが、漠然とした思いがはっきりとまとまってくるっていうあれです)。
 それプラス、雪標はこんなことを考えていました。
祐巳さま心配の瞳子ちゃん、祐巳ちゃんを信頼している祥子さま。激昂した意見を戦わせた二人の間に、もしそうなったらどうするんですか?、っていう話が当然でるんじゃないかと思うのです。そう賭けです。祥子さまが負けたら、姉失格だから姉妹解消(プッツンした祥子さまなら言いそうです(^-^;))、瞳子ちゃんが負けたら、祐巳ちゃんへの告白とか、本当の自分を見せるとか、素直になりなさいとか、但しすぐには無理だろうから、そう学園祭の前日までにとか…。
 この辺りで祥子さまは、瞳子ちゃんが祐巳ちゃんのことが好きと気づき、自分の目から見ても二人はお似合いじゃないかと思い、自分が原因で擦れ違ってしまった二人を何とかしたいと考えていたのではないかと思います。
 結局賭けは祥子さまの勝ち。悔しさなのか、顔向けできないのか、それとも? もろもろの感情から瞳子ちゃんは二人に会わずに別荘へ帰ってしまったと…。

涼風さつさつ編
 「子羊たちの休暇」で、祥子さまの中で祐巳ちゃんの妹は決まりました。
後はその舞台設定です。昨年自分もやられた山百合会主催舞台劇はその思惑に格好の舞台です。瞳子ちゃんは演劇部でしかも一年生。山百合会の舞台劇を手伝ってもらう上での障害は全くといって良いほどありません。
 令さまにもある程度の事情を話して納得させたのではないかと思います。
令さまはその辺深く聞かなくても事情を察してくれるでしょうし、祐巳ちゃんに妹ができれば、由乃さんも慌てるだろうとの目論見から賛成してくれるでしょう。
そういったことを頭にいれて、可南子ちゃんのことを妹するかどうか尋ねる令さまの発言を見ると、「チェリーブロッサム」で乃梨子ちゃんに少し挑発気味に話しかけていた時の発言と重なって笑えます。
 三年生二人が何か企んでいる、祐巳ちゃんや由乃さんに妹のことをとやかく言わない事情ってこんな感じなんじゃないかなと思うわけです。


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